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エンジと薄いクリーム色の鮮やかな塗り分けの
ディーゼルカーです。
普段は一両編成のディーゼルカーが僅かな
乗客を運んでいる筈なのですが、
今日は2両でも満員状態です。
豊田市方面からの接続列車が到着すると
更に多くの乗客が乗り込み、
通勤列車並の混雑状態で発車しました。
猿投を過ぎると、今までの住宅地は姿を消し
山間の雑木林の中を走っていきます。
やがて車窓右手に矢作川があらわれ、
そして、ゆっくりと渡りました。
春の日に川面がキラキラと輝いていました。
矢作川を渡ると、のどかな山里が
現れては消えていきます。
沿線には多くのファンの人がカメラを構えていました。
各駅には小さな子供さんを連れた
若い夫婦の姿も多く見うけられました。
家族で訪れている方々の多くは、
多分沿線に住んでいる人達だと思われます。
線路際で走り去るディーゼルカーに手を振っている
あの小さな子供達が大きくなった時に、
昔、鉄道が走っていたことを思い出すでしょうか?
鉄道は交通機関なのに、普段の生活で使われることなく、
郷愁や哀愁を抱かれながら消え去っていく。。。
沿線の多くの人にとって、鉄道は生活の足ではなく、
郷愁の対象になっているようです。
今回、廃止直前のディーゼルカーに乗ってみて
寂しいけど、これがやっぱり現実だと実感しました。
猿投から15分、のどかな山里に包まれた
西中金駅に着きました。
駅の裏手の神社の杜を背景に停まっている
ディーゼルカーの様子はとっても絵になっています。
西中金の駅に降り立つのは、これで2回目です。
最初に来たときは、今から20年前のこと。
その時の情景は、もうすっかり忘れて思い出す事は出来ません。
駅前の集落は小さく、駅舎のすぐ前を国道153号線が走っています。
駅舎の脇には、足助に向かう接続バスが待っていました。
足助は三河山地の宿場町です。
この足助まで三河線のレールが繋がっていれば、
利用者も多くなり、もう少し状況は変わったと思います。
廃止になった後は、猿投や愛知環状鉄道の
四郷駅と足助を結ぶバスが走るようになります。
足助に向かう人に取っては、乗り換えの回数が減るので、
かえって便利が良くなるのでは、とも思ってしまいました。
西中金に到着したディーゼルカーは
10分ほど停車して、猿投に折り返します。
今来たばかりの線路を猿投まで戻ります。
でも、この景色はもう2度と見ることがない、
そう思うと、改めて路線廃止の重みを感じました。
猿投で、知立行きの電車に乗り換え、これも3月末で
廃止になる碧南 - 吉良吉田間を目指しました。
猿投からは豊田市に向かう人が次々と乗り込み、
豊田市で多くの乗客が入れ替わりました。
豊田市の中心街を抜け、愛知環状鉄道をアンダークロスすると
左手遠くにトヨタ自動車の本社ビルが見えて来ました。
沿線には住宅や工場が多く、駅に停まるたびに
頻繁に乗客が入れ替わり、このあたりは活気があります。
車内は5割ほどの乗車率です。
JR東海道本線をオーバークロスすると刈谷。
刈谷の市街を抜け、古い家の密集する高浜を
過ぎると車内は随分閑散としてきました。
小まめに停車を繰り返し、碧南に到着しました。
ここで、吉良吉田行きに乗り換えです。
次の列車は10分程の乗り継ぎで13:35です。
西中金からずっと駅の外に出ずに列車に乗っていたので、
お昼を食べ損ねてしまっています。
乗り継ぎの時間に途中下車してみました。
碧南駅の駅舎は古く、駅前は商店街もなく、
一駅手前の碧南中央駅の駅前が
整備されていたのに比べると
少し寂れた感じです。
近くにコンビニも見当たらなかったので、
再び改札を抜け、ホームに入って
吉良吉田行きの列車を待ちました。
駅構内には留置線があり、何本かの
赤い電車が停留しています。
どこからともなく油の匂いが漂っています。
昔、生まれ故郷の名鉄の駅で
嗅いだ懐かしい匂いです。
しばらく時間を潰すうち、吉良吉田方面からの
ディーゼルカーが到着しました。
このディーゼルカーが13:35発
吉良吉田行きとなります。
猿投 - 西中金間で乗ったディーゼルカーよりも
更に小柄な車両です。
同じように、今日は2両編成での運行ですが、
普段はきっと単行のディーゼルカーが
僅かな乗客を乗せているのでしょう。
多くの乗客を乗せ、定刻に発車しました。
建て込んだ家や工場の間を赤茶けた線路が
右へ左へと大きく曲がっています。
何度も大きなカーブを曲がりながら
小さな駅に小まめに停まって行きます。
各駅で、何人もの人がカメラを構え、
去り行くディーゼルカーをファインダーの
中から、見送っています。
密集した住宅地を抜け、田植え前の
田圃が広がるようになったと思ったら、
築堤を駆け上がり、矢作川を渡りました。
河口も近く、西中金に向かう途中に渡った川と
同じ川とは思えないほど川幅が広がっています。
鉄橋に古びた架線柱が並んでいます。
架線も剥がされ、さび付いた細い架線柱。
赤い名鉄電車が駆け抜けた
遠い昔の姿が目に浮びました。
矢作川を渡り終えると、岡崎平野の
広々とした景色が広がりました。
線路脇には菜の花やレンゲ草、
それに山吹の様な黄色い花が咲き、
とてものどかな景色です。
こののどかな車窓風景もあと数日で見納めです。
どうも、景色の綺麗な区間は、普段の利用者が少なく、
次々に廃止になってしまう一方で、
沿線に家が建ち込め、利用者の多い、
平凡な車窓の路線が残っていくという
図式になっているようです。
近い将来、日本には大都市近郊の通勤路線と
新幹線しか残らないような気もします。
停車するたびに増え続ける乗客で、
大混雑となった2両編成のディーゼルカーが
終点、吉良吉田に到着しました。
ホームにも多くの人で溢れそうな程でした。
これで、もう2度と乗ることのない、
三河線の末端区間の乗車を終えました。
春の明るい日差しの元、またいつの日にか
今日の様なのどかな鉄道の旅を
してみたかったものです。
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