NordPilen (Narvik - Stockholm)

乗車日:August 4, 5, 1999







あまり活気のないNarvikの街を散策し、駅に戻ると、
既に多くの旅行者で溢れていました。

時刻は午後3時20分すぎ。
Stockholm行きNordPilen号の発車までまだ30分近くあります。

多くの旅行者が、大きなバックナップを
持っていて、駅舎の中は足の踏み場もない程です。

ここNarvikは世界最北端の駅。
最北端の駅の証明書があると聞いていたので、
窓口で聞いてみたのですが、
もう何年も前から置いていないのだそうです。

発車時間が近づきホームに人が溢れて来たのですが、
始発駅なのに発車が25分程遅れるとのアナウンスがありました。
やがて、青い塗装の電気機関車を先頭に、
ゆっくりと列車が入線して来ました。




荷物車の後に、2両ほど座席車が続き、
カフェ車、もう一両の座席車、
その後ろに5両ほど寝台車が続いています。

予約を取った寝台車は、2等寝台。
2等といっても個室寝台で、一部屋あたりの定員は3名。
枕木の方向に長いソファーがあって、
この背ずりの部分を手前に倒して、
丸められている布団をコロコロ引き出すとベットになるようです。

定員は3名でも殆ど2名で使用するようになっているのか、
真ん中の一つは折りたたまれていて、
上段のベットだけがセットされています。
洗面所もあって、コンパクトな室内です。
車両の端にはシャワールームもありました。

荷物を下ろして、明日までの19時間あまりの生活の場所を
整えているうちに、列車はゴトリと動き出していました。



進行左手に海を眺めながら次第に勾配を上っていきます。
海は入り江のようになっていて、
対岸に雪を抱いた山がその向こうに聳えています。
高い位置から海を眺められるので、雄大な眺めです。

幸い海の見える進行方向左側が通路になっていて、
窓の開けられる個所もあって、景色を見るにはうってつけです。


入り江が次第に幅を狭め、列車も益々勾配を上り、
崖っ縁にへばりつくようになりました。

入り江の先に続くフィヨルドへと足を踏み入れたようです。
切り立った対岸の崖、海面はもう遥か下に見えています。

スノーシェードも連続するようになりました。
列車の進行方向に、にわか雨が降っているのか、
フィヨルドに架かる虹を見ることが出来ました。




ついに狭いフィヨルドの谷間に海が尽き、
列車も深く切りたった崖の上の平地の部分に
辿り着いたようです。

トンネルを越え、あたりに建物が全く見当たらない
駅でNarvik行きの列車と交換しました。
列車を見送る駅員の姿が印象的でした。

道路も見当たらないこの山深い駅に、
どうやって通勤しているのか、不思議に思えてきます。

今走っているこの線路は、スウェーデンのキルナ鉱山の鉄鉱石を
メキシコ湾流の影響で冬でも凍結しないNarvikへ運ぶのが目的です。
その昔、地理の時間にも出てきました。
でも、この線路がこんなに厳しい地形の所を行くとは、
こんなに素晴らしい景色の中を走るとは、
まったく予想だにしていませんでした。


やがて国境の駅を過ぎ、スウェーデンに入ります。
もうフィヨルドの景色は終わり、湖が広がる高原の景色となります。

傾きかけた日が、湖の向こうの山を、穏やかに照らしています。



Narvikから1時間半程で、Abisko turiststasjonに到着。
あまりに車窓風景が素晴らしいので、僕はここまでずっと、
通路に立って景色を眺めていました。

ここは駅前にリゾートホテルが建ち、
大勢の乗客が乗り込んで来ました。
このHotelを拠点に、湖の点在する
ラップランドの大地を散策出来るそうです。


まだ、夕方6時前ですが、早めにカフェカーに向かいました。
ナルビクの駅で、列車が入線してきた時、
ちゃんとした食堂車が連結されていなっかったので、
今日の夕食はサンドイッチかと諦め、
売れきれる前に買いに来たのです。
でも予想に反して、簡単な食事を注文することが出来ました、

テーブルも合わせて6つしかありませんでした。
時間が早かった為か、一つテーブルがあいていて、
家族揃っての食事を摂る事が出来ましたが、
車窓風景のわりにこの夕食はちょっと寂しかったです。

食事が終わると、丁度キルナに到着するところでした。
駅の周りに大きな黒い山が見えます。
僕はその光景を見て、鉄鉱石の露天掘りをしているんだと、
早とちりをしてしまったのですが、キルナの街の地下は、
まるで、地下都市のように坑道が張り巡らされているのだそうです。


キルナからは延々ラップランドを走ります。



平坦な土地を走るようになり、列車もスピードを上げました。
針葉樹の森がどこまでも続き、時折湖が現れます。
流れ去る景色をボーっと眺めながら、ウィスキーを傾ける、
まさに鉄道旅行の醍醐味ここにあり、と言った感じです。
いつしか、日も西に傾き始めました。



シャワーを浴び、乗る準備を整えて、ベッドにもぐります。
列車はきっともう北極圏を抜け出してしまったと思います。

午後9時半、久しぶりに大きな集落が現れるとBodenです。
スカンジナビア半島をほぼ横断し、バルト海はもうすぐです。

ここで海岸沿いのLulea行きの車両が切り離され、
今度はLuleaから到着した車両を連結します。
この作業で、時刻表上では20分ほど停車するのですが、
今日はLuleaからの列車が遅れたせいか、40分ほど停車していて、
Bodenを発車したのは10時を過ぎていました。

ウィスキーの心地よい酔いと、今日一日の程よい疲労とで、
Bodenを発車するとすぐに眠ってしまったようです。


翌朝8時頃目を覚ましました。思いのほかぐっすり眠れたのですが、
かなり揺れたような気がします。
あたりの景色は、森と湖の景色で昨晩とあまり変わっていません。
多少人口密度が増えたような気がします。

列車がどのあたりを走っているか、定かではなかったのですが、
やがて、Gavleに着き、殆ど定刻に戻っていました。
寝ている間に40分の遅れを取り戻してしまった様です。
昨日揺れたのは、きっとスピードを上げて走っていたせいでしょう。

GavleからStockholmまでは、僅か一時間半。
集落の現れる頻度がめっきり増え、線路が分岐していくのも
ちょくちょく目に付くようになりました。
スウェーデン国鉄ご自慢の特急列車 X2000とも何度かすれ違いました。

Stockholmには結局、定刻10時35分に到着。
もっと豪華な食堂車が連結されていれば申し分ないのですが、
NordPilen号の旅は、素晴らしい車窓の連続で、
とても楽しい列車の旅となりました。

Stockholmの街の様子は、 ここ です。



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